2種類の「食べる力」
「食べる力」を大きく2つに分けると、“食べものを準備する力”と、“体内にとり込む力”になるのかなと思います。
準備する力は、食べものを栽培したり、お買い物をしたり、献立をたてて調理するスキルも含まれます。これは少し大きくなってから身につける力です。
一方、体内にとり込む力は、子どもの身体の発達に直接関係する部分で、生まれてすぐに使う力です。具体的には、のみ込む、噛む、食べものを自分で口に運ぶことも含まれますね。ちなみに、赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいるときから、おっぱいを飲む練習をしているそうですよ。
今回は、「とり込む力」の方を深堀りしていきます。
乳児嚥下と成人嚥下
とり込む力の中で、最初に身につけるのが「のみ込む力」です。
人間は生後5か月頃までは乳だけで育ちます。舌を使っておっぱいや哺乳瓶から乳を器用に搾り、ごっくんごっくんとのみ込みます。この時、口を開け、あごを閉じない状態でのみ込みます。これを「乳児嚥下」といいます。
生後6か月頃の離乳食開始時期になると、口を閉じ、あごを閉めてのみ込む「成人嚥下」が少しずつできるようになります。離乳期に入ったからといってすぐに乳児嚥下から成人嚥下に切り替わるわけではなく、離乳食が進む中で、成人嚥下の仕方を覚えていきます。離乳期は、離乳食を食べながらも、哺乳は続けているので、いわばハイブリッドにのみ込みができる時期ですね。
ちなみに、大人になっても乳児嚥下ができるか試してみたところ、できませんでした!のみ込もうとすると自然に口が閉じます。世の中は何かを失って何かを得る……「のみ込む」に関していえば、私たちは乳児嚥下を失い、成人嚥下を手に入れるのです。
「のみ込む」を意識した離乳食の進め方
このように、離乳期は成人嚥下の仕方を学ぶ時期なので、離乳食は「のむ込む」力を意識した食事を与えましょう。
- 離乳初期(生後5~6か月頃)
おっぱいを飲むときのように口の中は密閉状態になっていないので、口を閉じないとのみ込めません。
思い返せば、娘にはじめて離乳食を与えた時、びっくりした顔をしていました。おっぱいじゃないものが口に入ってきてびっくりしたのもあるとは思うのですが、今までにないのみ込み方(成人嚥下)をして自分でもびっくり、な瞬間だったのかもしれません。舌は上下方向に動かせるようになります。 - 離乳中期(生後7~8か月頃)
下の前歯が生えてきて、舌が前に出ないように柵の役割をするようになると、前後、上下にじょうずに舌を動かせるようになります。舌と上あごを使って食べものを押しつぶし、舌でひとまとめにしてのみ込めるようになります。 - 離乳後期(生後9~11か月頃)
上下の前歯がそろうと、上あごが広がり、口の容積が広がります。舌や唇の細かな動きもできるようになり、舌で支えながら奥の歯ぐきで食べものをつぶします。前歯で食べものをかじり取り、ひと口の大きさを覚えさせましょう。 - 離乳完了期(生後12~18か月頃)
前後、上下、左右と複雑に舌を動かせるようになります。奥歯が生えてくると、歯ぐきではつぶせなかったものも食べられるようになります。ただし、奥歯が生えそろうまではすりつぶす動作はできません。噛む力もまだ弱いので、急に硬いものを与えないように気をつけましょう。うまく噛めず、丸のみの癖がついたり、噛みやすい食べものばかり食べる偏食につながることもあります。
また、この頃より食べものを自分で口に運ぶようになります。はじめのうちはうまく口に入れられず食べこぼしも多くなりますが、手と口の協調がとれるようになるとじょうずに食べられるようになります。練習ができるように、手づかみできるものをメニューに取り入れるようにしましょう。
まとめ
今回は、「のみ込む」にスポットを当てて、離乳期を見てきました。
口呼吸、睡眠関連呼吸障害、異常嚥下癖、発音障害など、お口まわりのお悩みは、さかのぼれば乳児期から幼児期の間に成人嚥下への移行がうまく進まなかったことに原因があるといわれています。将来困らないためにも、「のみ込む」力に意識して離乳期を過ごしたいですね。
参考資料:
外木徳子(2023):口腔機能発達のカギは「舌」の育成にある~離乳食期からの取り組み~,睡眠口腔医学May2023
髙橋摩理(2017):小児の摂食嚥下機能の発達とその障害,リハビリテーション・エンジニアリング32(4)
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