生涯の食習慣が身につくのは幼児期
食育の目的は、「望ましい食習慣」を身につけ、健康な体をつくることです。
望ましい食習慣とは、1日3食バランスのよい規則的な食事をする、好き嫌いをしない、食事を残さない、おやつを食べ過ぎない、歯磨きをする、食事の手伝いをする、食事のあいさつをするなど。この望ましい食習慣が生活習慣病のリスクを下げ、しかも幼い頃の食習慣は大人になっても継続することが分かっています。つまり、幼児期に獲得した食習慣は一生モノということです。いざ大人になってから食習慣をガラリと変えるのは結構エネルギーのいるものです。幼児期に望ましい食習慣を身につけておけば、生涯健康的に過ごせますね。
食育は親から子どもへの一生モノのプレゼント
子育てまっ只中は想像もつかないことですが、子どもに関われる時間は、子どもの年齢が上がるにつれて減っていきます。
食事についてもしかりで、親が子どもの食事に最も関われるのが幼児期です。
小学校、中学校、高校へと進むにつれ、生活の場や人間関係が広がり、情報に触れる機会も増えていきます。食事にまつわる情報(正しくないものも含めて)を外から仕入れてきたり、友達と出かけて外食する機会も増えるでしょう。また、思春期に突入すると、親の言葉を受け入れなくなるため、教育しにくくなってきます。つまり、幼児期から小学生くらいまでのまだ素直な時期に食教育をしておくことが大切なのです。
独り立ちする前に最低限の調理スキルを
高校生までは親元で暮らす場合が多いので、親が望ましい食事を用意すれば、健康上の大きな問題は起こらないと思います。
しかし、大学に進学、もしくは就職して独り暮らしをする場合、親は子どもに食事を準備できなくなるため、本人に望ましい食習慣が身についていなければ、とたんに体調を崩してしまうでしょう。この時期に陥りがちなのが、家事、仕事や学業、アルバイト、サークル活動など、やらなければならないことが多く、毎日ヘトヘトに疲れて、食事がおろそかになるというパターンです。どんなに疲れていても自分が食事を準備しなければいけないのですから……!
調理スキルがある若者は、調理頻度が高く、野菜の摂取量が多いといった類のデータがたくさんあります。さらに、19~23歳を対象にしたアメリカの研究では、調理頻度が高いほど、5年後の20代半ば~後半にかけて、果物、野菜、濃い緑・オレンジ色の野菜の摂取量が多く、砂糖入り飲料やファストフードの消費量が少ないことが分かっています(Laska et al.,2011)。
つまり、調理スキルがあれば、自炊する頻度も増え、野菜の摂取量も増えて、望ましい食生活を送りやすいということになりますね。できれば親元を離れる前に、バランスのよい食事を選ぶ力と、最低限の調理スキルは身につけさせたいところです。
そうすることで、子どもは新生活のストレスに負けず、充実した毎日を過ごすことができるでしょう。とはいえ、調理スキルは一夜にして身につくものではありません。学校での調理実習に真面目に取り組むのはもちろんですが、私たち保護者も少しずつ教えていきたいですね。
そういった意味でも、「できることが増える」ことを純粋に楽しめる、素直な幼児期からの食育が大切になってくるのです。
参考資料:
笠巻純一ほか(2023):調理技術の自己評価の向上が女子学生の栄養素等摂取状況に及ぼす影響-1年間の継続調査結果に基づく解析-,Health and Behavior Sciences 21(2),85-98
廣瀬瑠華ほか(2024):幼児・小・中・高・大学生各時期の食習慣・食行動と関連要員の特徴-先行研究結果の内容分析-,日本公衆衛生看護学会誌JJPHN 13(2)
小野くに子ほか(2023):小・中学生における家庭での食事中の食教育と生活要因の関連,日本食育学会誌17(1)
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